
©倉持壮
渋谷毅オーケストラ
渋谷毅オーケストラは、1986年10月、名古屋ヤマハジャズクラブ主催による「高柳昌行の世界」と題するコンサートがきっかけで結成された。このコンサートは、高柳昌行+渋谷毅オーケストラとして行われる予定だったが、高柳氏が急病のため急遽、廣木光一が代役を務めた。翌11月、名古屋での特殊な編成を必要最小限の形に改め、新宿ピットインに於いてデビューする。オーケストラのレパートリーはディキシーランドからフリーまでと幅広いが、渋谷毅本人の作曲になるナンバーが無いのもひとつの特色である。現在は松風鉱一、石渡明廣、カーラ・ブレイ等のナンバーがそのレパートリーとなっているが、いかなるナンバーにおいても揺らめく音の流れを見事に表出する渋谷アレンジのマジックが満ち溢れている。ギル・エヴァンス亡き後、日本のみならず世界のジャズ・シーンを代表するオーケストラであると言っても過言ではないだろう。

渋谷 毅 TAKESHI SHIBUYA / PIANO, ORGAN
1939年東京都生まれ。1975年に自己のトリオを結成。1980年代後半より、従来の典型的なビッグバンド・スタイルから解放された渋谷毅オーケストラを中心に活動。このオーケストラの人間主義と評された自由奔放な魅力に溢れた演奏は、「LIVE '91」「酔った猫が低い塀を高い塀と間違えて歩いているの図」「ずっと西荻」等の6枚の作品として記録されている。浅川マキ・酒井俊・金子マリ等ヴォーカリストとのセッション、レコーディングにも数多く参加。また作曲家としても歌謡曲・映画音楽・CM音楽等を手がけ、NHKの「おかあさんといっしょ」「母と子のテレビ絵本」にも多くの作品を提供している。1999年秋に発表した「エッセンシャル・エリントン」は第33回ジャズ・ディスク大賞・日本ジャズ賞を受賞。2001年秋に発表した「しーそー」は第35回ジャズ・ディスク大賞・日本ジャズ賞・芸術祭優秀賞を受賞している。近年、佐良直美の27年ぶりの作品となる「いのちの木陰」を手がけ話題となる。1989年より主宰するカルコ・レーベルは現在までに14作品を発表している。

峰 厚介 KOUSUKE MINE / T.SAX
1944年生まれ、東京都出身。中学生の頃クラリネットを吹き始める。1962年のデビュー当時はアルト奏者として注目され、1969年に菊池雅章5でその人気を決定づけた。その後テナーに転向。一時渡米するが帰国後に本田竹広と結成したグループ「ネイティブ・サン」で一大ブームを巻き起こした。1992年からはクインテットを率いて活動。アルバム「MAJOR TO MINOR」は1993年度の日本ジャズ賞を獲得した。渋谷毅との共演はこのオーケストラが初めてであるが、押しも押されぬスター・プレイヤーである彼が時に堂々たるソロをとりながら、時に脇役としてアンサンブルをつとめているのが興味深い。

松風 鉱一 KOUICHI MATSUKAZE / FLUTE, A.SAX, B.SAX
中学よりサックスを始め、高校在学中から国立音大教授の石渡悠史氏に師事。国立音大在学中よりプロ活動を開始。自己のグループでの活動と平行して、生活向上委員会・森山威男・冨樫雅彦などのグループにも参加する。ジャズ活動の他に、クリエーション、ミッキー・カーチス、ゴダイゴ、ミッキー吉野G等のコンサート、レコーディング、海外公演に参加。現在は自己のカルテットの他、渋谷毅エッセンシャル・エリントン、水谷浩章フォノライト、今村祐司ぐるーぷ等で活動。渋谷オーケストラではフルートからアルト、バリトンサックスを使い分けての多才ぶりを発揮。貴重な存在となっている。また、作曲にも優れ、オーケストラにも作品を提供している。

林 栄一 EIICHI HAYASHI / A.SAX
中学のブラスバンドでサックスを始め、高校生の時に山下洋輔トリオに飛び入りして共演。その後十数年を経て1980年偶然再会。1981年からは山下洋輔トリオ+1に参加して一躍脚光を浴びる。1990年自己のバンドMAZURUを結成。同名の初リーダーアルバムを発表。ドイツニュールンベルグジャズ祭に出演し好評を博す。その後も片山広明とのCO2、de-ga-showや石渡明廣MULL HOUSE、酒井俊Gなど様々なグループで活動する。正確なテクニックに裏付けられた高度な適応性と、鋭く密度の濃い演奏は圧倒的。その唯一無二な音は渋谷毅オーケストラ、石渡明廣MULL HOUSEなどでも欠かせない存在である。代表的アルバムとして、「de-ga-show」「Monk's Mood」「音の粒」「MAZ」「森の人」「Birds and Bees」「鶴」「融通無碍」「GATOS Meeting」等、数多くの作品を発表している。

津上 研太 KENTA TSUGAMI / SAX
学生時代より大友義雄氏(Sax)、ジョージ大塚氏(Ds)に師事し、1987年ジョージ大塚WE THREE、古澤良治郎PaPa-Rでプロデビュー。以来、山下洋輔(Pf)、綾戸智絵(Vo)、中本マリ(Vo)、忌野清志郎(Vo)、坂田明(Sax)、大友良英(Gt)、上々颱風、ゴンチチ等、共演したミュージシャン多数。現在、菊地成孔DCPRG、村田陽一Orchestra、清水くるみバンド、市野元彦Time Flows等、多岐に渡るグループやセッションで活動中。2000年夏に南博(P)、水谷浩章(Bass)、外山明(Ds)を率いる自己のリーダーバンドBOZOを旗揚げ。作曲・編曲も手がけ、今まで4枚のCDをリリースしている。渋谷オーケストラにはたびたび招かれていたが、1996年5月よりレギュラー・メンバーとなる。

松本 治 OSAMU MATSUMOTO / TROMBONE
数々の著名なビッグバンドやジャズ・ミュージシャンのライブ、コンサート、レコーディングに編曲者・指揮者・作曲者としても参加する。山下洋輔Special Big Bandでは「ラプソディー・イン・ブルー」をはじめ「ボレロ」「組曲 博覧会の絵」「交響曲 新世界より」などクラシックの大作を斬新なアプローチで見事にビッグバンドに編曲し大きな評価を得た。自己のグループTrigonometriaで活動の他、Asian Youth Jazz Orchestra、大和田レインボウ・プロジェクト(渋谷区主催)の音楽監督、洗足学園音楽大学の講師も務める。ソロアルバム「和風」「蒼き空に身悶えて」「帰る方法」がある。渋谷オーケストラにあたっては、立った一人のトロンボニストとしてその美しい音色を聴かせる。

石渡 明廣 AKIHIRO ISHIWATARI / GUITAR
中学生の時にギターとドラムを始める。暗黒舞踏「大駱駝艦」の音楽監督に就任して注目を集める。天誅組、SALT、JAZZY UPPER CUT、渋さ知らズ等で活躍しつつ、渋谷毅との月の鳥、リーダーバンドMAD-KAB-at-AshGateを率いる等、多岐に渡り幅広く活動。その並外れて鋭くスリリングな演奏は、あらゆる既存のスタイルを超えて新鮮である。渋谷オーケストラにあってはギタリストであるとともに作曲家として様々な作品を書いている。1996年、初のリーダーアルバム「MULL HOUSE」を発表。2014年、待望の2ndアルバム「Funny Blue」を発表。

外山 明 AKIRA SOTOYAMA / DRUMS
幼少時、兄の影響で音楽に興味を持つ。宮崎に移った中学生の時にドラムを購入し、より音楽にのめり込んで行った。東京に戻り広木光一のグループに参加。以後、坂田明DA-DA-DA、日野皓正HAVATAMPA、松岡直也スーパー5、渡辺貞夫G、今堀恒雄Tipographicaなどでも活動。古澤良治郎との交流を深める中、忌野清志郎、UA等とも共演するなど多彩。また、近年は単身ギニアに渡りギニア国立舞踊団のバラフォニストに手ほどきを受ける。そのスタイルにとらわれないドラムセンスはミュージシャンからの信望も厚い。以前よりゲスト参加はしていたが、2011年春、古澤良治郎の後を受け渋谷毅オーケストラのメンバーとなる。